傷跡に毛が生えない原因とは??毛が生えない理由と自毛植毛でカバーできる条件

怪我や火傷、手術によってできた頭部の傷跡から、毛が生えなくなってしまった経験はありませんか?

「傷は治ったから時間が経てば毛もまた生えてくるだろう」と思っていたのに、何年経っても状態が変わらず、深刻に悩んでいる方は多いです。

このように傷そのものは治っているのに、その部分だけ毛が戻ってこない状態は「瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)」と呼ばれています。

なぜ傷跡には毛が生えてこないのでしょうか。

この記事では、傷跡に毛が生えない医学的な理由と、その部分を自然にカバーできる方法として注目されている「自毛植毛」について、詳しく解説します。

傷跡への自毛植毛は可能なのか、それを成功させるための条件は何か、そして自毛植毛によって出来る傷跡はどうなのかなどの疑問にもお答えします。

傷跡に毛が生えないのはなぜ?|皮膚構造と脱毛メカニズム

傷跡に毛が生えないのはなぜ?|皮膚構造と脱毛メカニズム

怪我や火傷などが治った後、皮膚はきれいに再生したように見えても髪の毛だけが生えてこない場合があります。これは皮膚の治癒と髪の毛を作り出す組織の再生が全く別の問題だからです。ここでは、傷跡から毛が生えなくなってしまう根本的な原因について解説します。

瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)の可能性

傷跡に毛が生えない状態は、「瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)」と呼ばれます。これは、怪我や火傷、手術などが原因で、皮膚の深い部分にある毛包(毛を作り出す組織)が破壊されることで起こる脱毛症です。

毛は毛包という組織が細胞分裂を繰り返すことで作られます。しかし、深い傷を負うと、皮膚が治癒する過程で毛包が「瘢痕組織(はんこんそしき)」という硬い組織になり、髪の毛を作り出す機能が失われます。

このように、瘢痕性脱毛症は髪の毛が一時的に抜けてしまう他の脱毛症とは異なり、毛を作り生み出す機能自体が失われるため、毛が生えなくなるのです。

血流の悪さが発毛の妨げになる

瘢痕組織ができてしまうと「血流の悪化」という問題も生じます。

健康な頭皮では毛細血管が網の目のように張り巡らされ、髪の毛の成長に必要な酸素や栄養素を毛包へ届けています。

しかし、傷跡の部分が瘢痕組織になると、この血流が大幅に悪化します。血流が悪い状態では、たとえ毛包の一部が残ってても、髪の毛を育てるための栄養が十分に届きません。例えるなら、硬い土に水や養分が行き渡らない畑のような状態です。このような状態では、新しく髪の毛が発毛し育つのは極めて困難になります。

このように、傷跡に毛が生えないのは「毛包の消失」と「血流の悪化」という二つの大きな要因が関係しています。

自然治癒だけでは毛が再生しない理由

私たちの体には傷を治すための自然治癒力が備わっています。例えば、切り傷ができても時間が経てば皮膚が再生し、傷口がふさがります。

しかし、この自然治癒はあくまで皮膚の表面上の治癒でしかありません。

毛包のように皮膚の深い層にあり、複雑で特殊な機能を持つ器官は、一度完全に破壊されてしまうと自然治癒の力だけでは元通りに再生されません。皮膚は傷を塞ぐことを最優先に修復作業を行うため、毛包を修復するまでは手が回らないのです。

したがって、再びその場所に髪の毛を生やすためには、自然治癒に頼るのではなく、毛包そのものを移植するような医学的なアプローチが必要になります。

傷跡への自毛植毛は可能?

傷跡への自毛植毛は可能?

毛包が失われ、血流も悪くなった傷跡に本当に髪の毛を再生できるのでしょうか。その有効な手段として注目されているのが「自毛植毛」です。ここでは、傷跡への自毛植毛の可能性と、成功のための重要なポイントについて解説します。

傷跡への植毛は可能

怪我や火傷、手術などでできた傷跡への自毛植毛は可能です。

自毛植毛とは、自分の後頭部や側頭部など、AGA(男性型脱毛症)の影響を受けにくい健康な髪の毛を毛包ごと採取し、髪を生やしたい部分に移植する治療方法です。自分の組織を使うため、拒絶反応のリスクが極めて低く、移植された毛包が傷跡部分の皮膚に根付けば、そこで再び髪の毛は生え変わり続けます。

これまで毛が生えなかった傷跡を自分の髪の毛で自然にカバーすることが期待できるのです。

ただし、一次性瘢痕性脱毛症のように、植毛を行うべきでない種類の傷跡も存在します。

このような症例では植毛を行っても定着しない可能性があるため、専門医による慎重な診断が必要です。

ポイントは「血流」と「皮膚の柔らかさ」

傷跡への植毛が成功するかどうかは、「血流」と「皮膚の柔らかさ」の2つの要素に大きく左右されます。

傷跡の部分(瘢痕組織)は健康な皮膚に比べて血流が悪い傾向にあり、移植された毛包が定着し成長するためには、十分な酸素と栄養が必要です。血流が悪いと、通常の植毛よりも生着率が低くなる可能性があります。

また、皮膚の硬さも重要です。非常に硬く分厚い瘢痕組織の場合、物理的に毛包を移植するためのスペースの確保が難しかったり、移植しても強い圧迫によって血流が阻害されてしまうケースもあります。

これらの状態を見極めるため、医師はカウンセリング時に傷跡を直接触診し、血流や皮膚の柔らかさを慎重に評価します。

カウンセリングで「傷跡への対応経験」があるか確認する

傷跡への自毛植毛は、通常の薄毛治療のための植毛とは異なる知識と技術が求められます。

瘢痕組織の特性を深く理解し、血流や皮膚の堅さに配慮して移植のデザインや密度、深さを微調整する必要があるため、医師の経験と技量が結果に直結すると言っても過言ではありません。

そのため、傷跡への自毛植毛を検討する際は、クリニック選びが非常に重要になります。カウンセリングを受ける際には、次のような点を最低限確認しましょう。

・傷跡への自毛植毛の経験が豊富にあるか

・傷跡の状態(血流、硬さ)をどのように評価し、どのような工夫をして施術を行うのか

・考えられるリスクや、通常の植毛との生着率の違いについて誠実な説明があるか

安易に「可能です」と断言するクリニックではなく、専門的な視点から現状を見極め、現実的な計画を提示してくれるクリニックを選ぶことが、後悔のない治療のためには大切です。

自毛植毛で傷跡が残ることはある?

自毛植毛で傷跡が残ることはある?

自毛植毛で傷跡はカバーできますが、植毛手術そのものによって新たな傷跡が残る可能性があります。ただし、傷跡の程度や目立ち方は、採用する手術方法によって大きく異なります。ここでは、植毛手術で残る傷跡の種類と特徴について詳しくみていきましょう。

FUT法とFUE法の傷跡の違い

自毛植毛は、主に「FUT法(Follicular Unit Transplantation)」「FUE法(Follicular Unit Extraction)」という2つの手術方法があります。どちらの方法を選ぶかによって、後頭部に残る傷跡の形が大きく異なります。

手術方法残る傷跡の形
FUT法帯状に皮膚を切り取り縫合するため、一本の線状の傷跡が残る
FUE法専用のパンチ(直径1.0mm程度)を使用して毛根を1つずつくり抜くように採取するため、多数の点状の傷跡が残る

どちらの方法が良いかは、必要な移植本数、髪型、体質、そして何を優先するかによって異なりますが、傷跡の目立ちにくさを最優先に考えるなら、多くの場合はFUE法が適しています。

また、自毛植毛にはFUT法やFUE法以外にも手術方法があります。

以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

関連記事:トルコ植毛の「FUE法」「OHT法」「DHI法」の違いや施術の流れ・痛みについて解説

施術部位・採取方法で跡の残り方が異なる

自毛植毛の傷跡は、ドナー部(毛包を採取する部分)だけでなく、移植部にもごく小さな傷ができます。これらは毛包を植え込むために作られる小さなスリット(切り込み)やホール(穴)であり、髪の毛が生えそろうと傷跡はほとんどわからなくなります。

一方、ドナー部の傷跡の目立ち方は、採取方法によって大きく異なります。FUT法による線状の傷は、縫合技術が高い医師が執刀すれば非常に細くきれいな一本の線になり、時間が経つとさらに目立たなくなります。FUE法による点状の傷は、採取する範囲や密度を適切にコントロールすることで、傷跡が目立つのを抑えられます。

どちらの方法を選ぶ場合でも、傷跡を最小限に抑えるには、担当医師の熟練した技術と経験が必要です。

術後はかさぶたができるが自然に剥がれるのが正常な経過

自毛植毛の手術後、移植部とドナー部の両方に小さなかさぶたができます。特に移植部では、植え付けた毛穴の一つ一つに赤みが出て、点状のかさぶたができます。これらのかさぶたは、外部の刺激や細菌から、移植した毛包を守る絆創膏のようなものです。

通常、かさぶたは術後1〜2週間ほどで自然にポロポロと剥がれ落ちていきます。かさぶたが取れた後の皮膚は少し赤みがありますが、時間の経過とともに徐々に落ち着き、周囲の肌に馴染んでいきます。

かさぶたが気になって、無理に剥がしたり強くこすったりすると、せっかく植えた毛包まで一緒に抜け落ちてしまうおそれがあるため、なるべく触らないようにしましょう。

傷跡のカバーに自毛植毛が選ばれる理由

傷跡のカバーに自毛植毛が選ばれる理由

傷跡を隠す方法には、ウィッグや帽子、特殊なファンデーションなど、様々な方法があります。その中で、なぜ根本的な解決策として自毛植毛が選ばれるのでしょうか。それは、他の方法にはない「自毛植毛ならではの大きなメリット」があるためです。ここでは、自毛植毛が選ばれる具体的な理由について解説します。

植毛によって傷跡が目立たなくなるメリット

自毛植毛の最大のメリットは、傷跡そのものが物理的に隠れて目立たなくなる点です。

瘢痕組織は、周囲の健康な皮膚とは質感や色が異なり、白っぽく見えたり凹凸があるなど、何も隠すものがないと目立ちます。

自毛植毛によって傷跡から自分の髪の毛が生えてくると、髪が傷跡を覆い隠し、傷跡のテカリや色の違い、凹凸などがほとんど気にならなくなります。

傷跡が髪でカバーされると、見た目の改善だけでなく、精神的なストレスも大幅に軽減されます。これまで常に傷跡を気にして人の視線を避けたり、好きな髪型を諦めたりしていたストレスから解放されるなど、非常に大きな心理的メリットをもたらすのです。

ウィッグ・隠す手段に頼らず生活できるようになる

自毛植毛のもう一つのメリットは、一度定着すれば半永久的に効果が持続する点です。

自毛植毛は、薄毛になりにくい後頭部や側頭部から毛包ごと移植するため、移植された毛髪は繰り返し生え変わり、定着すれば一生涯生え続けることが期待できます。

一方で、ウィッグやヘアパウダー、増毛スプレーなどの一時的に見た目をカバーする方法は、日々の装着や取り外しの手間、定期的なメンテナンスなどのコストがかかります。ヘアパウダーなども同様に、毎日の使用が必要で、雨や汗で落ちる心配があるため、常に気を使わなければなりません。

自毛植毛であればこれらの手間やストレスから完全に解放され、移植した髪は自分の髪として自然に成長するため、通常の髪と同じようにシャンプー、カット、カラーリング、パーマなども可能です。プールや温泉、スポーツなども何の制約もなく楽しめるようになります。

自毛植毛は、見た目の自然さと日常生活の快適さを同時に実現できる治療法です。

まとめ|傷跡への植毛は状態に応じた対応がポイント

この記事では、傷跡に毛が生えない原因と、その有効な解決策である自毛植毛について詳しく解説してきました。

この記事のポイント

・傷跡に毛が生えないのは、毛包が瘢痕組織になることで起こる「瘢痕性脱毛症」が主な原因

・瘢痕組織は血流が悪いため、毛包が一部残っていても自然に毛が再生するのは極めて困難

・傷跡への自毛植毛施術は可能な場合が多く、自分の毛で傷跡をカバーできる根本的な治療法

・自毛植毛の成功には、傷跡の「血流」と「皮膚の柔らかさ」が重要

・自毛植毛にはFUT法やFUE法などがあり、採取方法によってドナー部の傷跡の形が異なる

・自毛植毛は、傷跡が目立たなくなるだけでなく、ウィッグなどの場合に掛かる手間や精神的負担の軽減も期待できる

頭部の傷跡は自分が思う以上に大きなコンプレックスになり得ます。しかし、自毛植毛によってその悩みが解消できる可能性があります。

まずは、傷跡への自毛植毛の実績が豊富なクリニックで、専門の医師によるカウンセリングを受けることから始めてみてください。