「人工毛植毛」とは?自毛植毛との違いや植毛の仕組み・費用相場を解説
薄毛や抜け毛に悩む方にとって、植毛は有効な選択肢の一つです。中でも「人工毛植毛」は、短期間で見た目の変化を期待できる方法として知られています。
しかしその一方で「人工毛植毛にはリスクがある」などの情報もあり、不安に感じる方もいるでしょう。
この記事では、人工毛植毛の仕組みや自毛植毛との違い、メリット・デメリット、そして治療を受ける前に知っておくべき注意点まで、詳しく解説します。
人工毛植毛は他の治療法にはないメリットがある反面、長期的な視点で考慮すべき点もあります。人工毛植毛と自毛植毛のどちらが自分に合っているか知りたい方や、費用や安全性も含めて比較検討したい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
【概要】人工毛植毛とは?

まず人工毛植毛がどのような治療法なのか、その概要からみていきましょう。ここでは、治療の仕組みや使用される素材、どのような方に向いているのかに加えて、歴史的背景についても解説します。
人工毛植毛の仕組みと使われる素材
人工毛植毛とは、合成繊維で作られた人工の髪(人工毛)を頭皮に植え込む薄毛治療法です。ポリエステルやナイロンといった素材で作られた人工毛を専用の植毛針を用いて一本ずつ頭皮に埋め込んでいきます。
人工毛の先端は、頭皮内で抜けにくいよう特殊な形状に加工されており、人工毛の周囲に組織が生着することで頭皮に固定される仕組みです。
また、自毛植毛のように後頭部や側頭部から毛髪(ドナー)を採取する必要がない点も、大きな特徴です。
人工毛植毛が向いている人の特徴
人工毛植毛は次のような特徴を持つ方に適しているとされています。
| ・すぐに髪の毛を増やしたい方 施術後すぐに髪のボリュームが増えるため、直近でイベントなどを控えていて即効性を求める方に向いています。 ・自毛植毛のドナーが十分に確保できない方 自毛植毛は自身の健康な毛髪を移植するため、採取できる本数に限りがあります。広範囲の薄毛でドナーが不足している場合でも、人工毛であれば希望に近い本数を植えることが可能です。 ・移植する髪の毛の色や太さに希望がある方 人工毛植毛は、移植する毛髪の色や太さを自由に選べるため、特別なこだわりがある方に向いています。 |
ただし、上記の条件に合っていても必ずしも人工毛植毛が最適とは限りません。これから紹介するデメリットやリスクも理解したうえで、慎重に判断する必要があります。
日本での人工毛植毛の歴史
日本で人工毛植毛が実用化されたのは1970年代のことです。当時は画期的な薄毛治療法として注目を集めましたが、植え込んだ人工毛に対する体の拒絶反応や感染症などのトラブルも多発しました。
また当時の技術では、人工毛の素材や衛生管理の面で課題も多く、頭皮の炎症や化膿、ケロイドなどの深刻な副作用に悩む方も少なくありませんでした。その結果、多くの医療機関で人工毛植毛は取り扱われなくなり、次第に下火となっていきます。
現在でも素材の改良や技術の進化は起きていますが、体にとって異物であることに変わりはなく、根本的なリスクは残っています。日本皮膚科学会の脱毛症診療ガイドラインでも、人工毛植毛は推奨度Dの「行うべきではない」と評価されています。
人工毛植毛の費用相場

人工毛植毛の費用は、主に植え込む毛髪の本数によって決まります。自毛植毛と比較して初期費用は比較的安価で、1本あたり300円程度が一般的です。
以下に費用の目安をまとめました。
| 本数 | 費用相場 |
| 1本あたり | 300円程度 |
| 500本 | 15万円程度 |
| 1,000本 | 30万円程度 |
| 2,000本 | 60万円程度 |
費用だけを見ると、自毛植毛より手軽に始められる印象を受けるかもしれません。
注意すべき点として、人工毛にはメンテナンスが必要で、そのたびに費用が発生します。また、人工毛は時間とともに抜け落ちてしまうため、見た目を維持するには定期的に植え足す必要があります。
そのため、初期費用だけでなく長期的にかかるトータルコストを把握したうえで判断することが大切です。
「人工毛植毛」と「自毛植毛」との違い

薄毛治療としての植毛には「人工毛植毛」と「自毛植毛」があります。これらは名前こそ似ていますが、特性は大きく異なります。ここでは、両者の違いを「費用と施術時間」「定着率とメンテナンス性」「見た目・自然さ」の3つの観点から比較してみましょう。
費用と施術時間
人工毛植毛の初期費用は比較的安価で、施術時間も自毛植毛に比べて短いため身体的負担が軽く、忙しい方や手術に不安がある方にとっては、短時間で施術が終わる点は大きなメリットです。
一方、自毛植毛の初期費用は高めで、基本料金に加えて1株(グラフト)あたり1,000円~2,000円程度の費用がかかるのが一般的です。例えば1000株を植毛する場合、合計で約100~200万円になります。施術時間は人工毛植毛より長く、植毛範囲の状況などによっては1日かかる場合もあります。
しかし、重要なのは長期的な費用の比較です。人工毛植毛は定期的な補充が必要になるため、そのたびに追加費用が発生します。一方、自毛植毛は一度定着すれば再手術は不要で、メンテナンス費用などのランニングコストは基本的にかかりません。
長期的に見れば自毛植毛の方が経済的といえるでしょう。
植毛後の定着率とメンテナンス性
人工毛植毛と自毛植毛の最も大きな違いの一つが、定着率とメンテナンスの必要性です。
人工毛植毛の定着率は低く、1年後には60~80%の毛が抜け落ちるとされています。見た目を維持するには、継続的なメンテナンスが欠かせないため、通院の手間と費用が継続的に発生します。
一方、自毛植毛の定着率は約80~95%と非常に高く、一度生着すれば自然なヘアサイクルで生え変わり続けます。移植した毛髪が定着すると、術後4ヶ月ごろから発毛が始まり、約1年で生え揃います。また、自毛植毛は自分の毛包細胞を使用するため拒絶反応が起こりにくく、定着後は特別なケアや定期的なメンテナンスは必要ありません。
定着率とメンテナンスの観点では自毛植毛に大きなメリットがあります。
植毛後の見た目・自然さ
人工植毛と自毛植毛は、見た目の自然さにおいても明確な違いがあります。
人工毛植毛の場合、合成繊維で作られた人工毛は自毛とは質感が異なるため、自然な見た目にすることが難しい場合が多いです。特に風合い・色合い・ツヤ感などは自毛と大きく異なるため、見た目に違和感が生じやすくなります。また、人工毛は成長しないため、周囲の自毛が伸びても人工毛は同じ長さのままなので、時間の経過とともに違和感が目立ちやすくなります。
自毛植毛の場合、移植した髪は自分自身の毛髪を使うため、風合いや色合いに不自然さはありません。移植後は通常の毛髪と同じように成長し、生え変わり続けるため、時間をかけて徐々に濃くなっていきます。また、自毛植毛は段階的に変化していくため、人工毛やかつらに比べて周囲に気づかれにくく、色合いも含めて自然な仕上がりになります。カットやスタイリングも自由に行えるため、多様なヘアスタイルを楽しめます。
見た目の自然さを重視する場合は、自毛植毛の方が適しています。
人工毛植毛のメリットとデメリット|注意点も紹介

人工毛植毛を検討する際には、メリットだけでなくデメリットやリスクについても理解しておくことが大切です。ここでは、人工毛植毛のメリットとデメリットに加え、特に注意が必要なリスクについて、医学的な根拠に基づき詳しく解説します。
人工毛植毛の3つのメリット
人工毛植毛には、次のようなメリットがあります。
①即効性があり、すぐに効果を実感できる
人工毛植毛の最大のメリットは、施術完了直後から髪が増えることです。自毛植毛では髪が生え揃うまで1年ほどかかりますが、人工毛植毛は施術直後から見た目が変わります。急なイベントを控えているなど、すぐに見た目の変化を求める方にとっては大きなメリットです。
②ドナー(移植する自毛)が不要
薄毛が広範囲に進行していて自毛植毛に必要なドナーが確保できない場合や、AGA以外の脱毛症で毛根が失われている場合でも、希望する本数を追加できます。
③初期費用を比較的安く抑えられる
自毛植毛と比較して1本あたりの単価が安く設定されていることが多く、初回の施術費用を抑えられます。
人工毛植毛の3つのデメリット
一方で、人工毛植毛には無視できないデメリットも存在します。
①定期的なメンテナンスが必要で、費用がかかり続ける
人工毛は時間の経過とともに抜け落ちるため、見た目を保つには定期的な追加植毛が必要です。追加植毛はその都度費用が発生するため、長期的には総額が高くなる傾向があります。
②仕上がりが不自然になりやすい
人工毛は質感や色味が自毛と完全に一致するわけではありません。また、人工毛は伸びたり生え変わったりしないため、時間の経過とともに周囲の自毛と馴染まなくなり、不自然な見た目になる場合があります。
③医学的推奨度が低い
日本皮膚科学会のガイドラインでは、推奨度D(行うべきではない)とされており、多くの医療機関が実施を控えています。さらに、植毛が盛んなアメリカでは法律により人工毛植毛が禁止されています。
【注意】人工毛植毛で気をつけたい4つのリスク
デメリットに加えて、人工毛植毛には健康に関わる次のようなリスクがあります。
①拒絶反応と炎症のリスク
人工毛は体にとって異物のため、免疫システムが拒絶反応を起こし、炎症やかゆみ、腫れなどの症状が現れる可能性があります。その後も体は人工毛を異物と判断し続けるため、慢性的な炎症が続くケースも少なくありません。
②感染症のリスク
人工毛は成長しないため、毛穴の周りに汚れや皮脂が溜まりやすく、細菌感染の原因となります。感染症を引き起こすと頭皮がダメージを受け、もともと生えていた毛髪にまで影響を及ぼしかねません。
③永久脱毛のリスク
慢性的な炎症により頭皮が線維化して硬くなり、血流が低下すると、既存の毛髪が抜け、永久脱毛につながる恐れがあります。
④深部感染のリスク
人工毛は抜けないように頭皮の深部まで差し込んで固定されるため、切れ毛により皮膚の中に埋もれた部分が残ると簡単には抜けません。その結果、皮膚の深部にまで感染が広がる危険性があります。
本当に人工毛植毛でいい?検討前に確認したい3つのポイント

人工毛植毛を検討する際、本当にそれが最適な選択なのか、慎重に考える必要があります。ここでは、人工植毛を検討する前に確認しておきたい重要なポイントを3つご紹介します。
長期的な費用やメンテナンスを理解する
人工毛植毛は初期費用が安くみえますが、その後にかかる費用など、長期的な視点で費用を計算することが大切です。人工毛は必ず抜け落ちるため、見た目を維持する場合、継続的なメンテナンス費用が発生します。
また、定期的な通院が必要なため、時間的な負担も生じます。仕事や家庭の都合で通院が難しくなった場合、見た目が大きく変化してしまうおそれがあります。
「10年後、20年後にはトータルでいくらかかるのか」「通院を長期間続けられるのか」など、長期的な視点で費用対効果を検討しましょう。
安心できる医師やクリニックを選ぶ
人工毛植毛は、いくつかのリスクを伴う治療法です。もし施術を受けるのであれば、クリニック選びは非常に重要になります。
人工植毛の施術を受ける際は、次の点を必ず確認しておきましょう。
| ・実績は豊富か? 施術執刀歴が長く、症例数が豊富な専門医がいるか。実際の症例写真を十分に確認できるか。 ・カウンセリングは丁寧か? メリットだけでなく、デメリットやリスクについてもしっかりと時間をかけて説明してくれるか。強引な勧誘はないか。 ・料金体系は明確か? 後から不明瞭な追加料金が発生しないか。事前に総額が提示されるか。 ・アフターフォローは万全か? 万が一トラブルが起きた際の保証や、術後のサポート体制が整っているか。 |
上記の点を複数のクリニックで確認し、比較検討することが大切です。
人工毛植毛以外の治療と比べて検討する
薄毛治療は人工毛植毛だけではありません。自分の毛髪が生え変わり続ける「自毛植毛」や、AGAの進行を抑制する「内服薬・外用薬治療」など、さまざまな治療法があります。
複数の治療法のメリット・デメリットを正しく理解し、自分の症状やライフスタイル、将来の希望に合った方法を総合的に比較検討することが、納得できる治療選びにつながります。
安全性や永続性、自然な仕上がりを重視するのであれば、自毛植毛が有力な選択肢となるでしょう。
まとめ|人工毛植毛をきちんと理解して自分に最適な治療法を選ぼう
今回は、人工毛植毛について、その仕組みから自毛植毛との違い、メリット・デメリットまで詳しく解説しました。
この記事のポイント
| ・人工毛植毛は合成繊維で作られた人工毛を頭皮に植え込む治療法で、施術直後から効果を実感できる即効性が特徴 ・日本皮膚科学会のガイドラインでは推奨度D(行うべきではない)と位置づけられており、医学的推奨度は低い ・初期費用は比較的安価だが、1年後には60〜80%が抜け落ちるため定期的なメンテナンスが必須 ・長期的に見ると追加費用が発生し続けるため、トータルコストは自毛植毛より高額になる可能性がある ・拒絶反応や感染症、永久脱毛といった健康に関わるリスクが存在する ・人工毛は質感や色味が自然な髪と異なり、時間の経過とともに不自然な見た目になりやすい |
人工毛植毛は、「すぐに効果を実感できる」「ドナーが不要」といったメリットがある一方で、長期的な視点で見過ごせないデメリットやリスクを伴う治療法です。薄毛治療を検討する際は、目先の効果や費用だけでなく、安全性や持続性、将来的なコストパフォーマンスまで含めて総合的に判断することが大切です。
まずは、専門のクリニックでカウンセリングを受け、自分の状態を正確に診断してもらいましょう。そして、さまざまな薄毛の治療法について医師とよく相談し、心から納得できる最適な治療法を選んでください。